百姓庵でいただきます

皆さん、こんにちは。 

この約2週間、山口県長門市油谷(ゆや)島にある自給自足の宿「百姓庵」にいました。ここは映画の舞台のひとつにさせていただく場所であり、僕の原点でもあります。撮影の合間にお手伝い、というより生活しながら合間に撮影をさせていただきました。ヤギの乳しぼりに田んぼに畑。日々健康になり、出ていたお腹も少しひっこみました。

ちょうど3年前、僕はここでウーフ(居候)をさせていただいていました。 

ご主人の義(ただし)さんには塩づくりを通して「海は全ての生物(いのち)のお母さん」と教わりました。学び多き日々の終わりはある日突然やってきました。「上関原発」建設のための海の埋め立て準備工事が始まると知り、「ちょっと行ってきます」と出て行ってから、現場を離れられなくなったのです。(当時の文→「海を売ってはおりません」) 今は映画づくりで自分の来た道を再び辿っているような感覚です。

 

今回も人生で初めての体験をしました。それはニワトリを殺して食べることです。ケニアに行った時、ニワトリをさばいたことはありましたが、自分の手で命を絶つことはしませんでした。これまでたくさんの肉を食べながら、一度も自分の手で殺したことはなく、ただかわいそうと思っているだけでした。そんな矛盾を抱える自分には体験が必要でした。

 

4~5年前から飼われているオスのニワトリの「オードリー」。名前の通り大きく逞しい体格です。その日の朝も「コケコッコ―!」と力強く鳴いていました。最後にえさをやりました。懸命にえさをついばむ姿は生きることしか考えていないようでした。そして捕まえようとすると必死に攻撃してきました。しかし、圧倒的な力の差で足を捕まえると、おとなしくなりました。そして、時折り目を閉じる様子は観念したようにも見えました。ためらうと余計にむごいので、首元にナイフを一気に振り下ろしました。血が出て、オードリーは鳴き、バタバタともがきました(首が切られても体は動くようです)。しだいに動きが鈍くなり、心臓の鼓動が止まりました。切った首を手に取ると涙が出てきました。分かっていたはずなのに自然と出てきました。

 

生きることは命を奪うこと。他の命によって生かされているということ。それは、あたりまえではなく、ありがたいこと。「(命を)いただきます」の本当の意味を噛みしめました。オードリーの心臓を食べ、彼の分まで生きていくことを誓いました。

義さんは若い頃に生や死について考えたそうです。どうしてこの世は命を奪わないと生きられないようにできているのか、それは不幸なしくみなのではないかと。それがどうしても納得できなかったそうです。その後、何年も自問していてふと気づいたことがあったそうです。それは、命はつながっていてひとつだということ。姿かたちは違うけど元々はひとつで、食べたり食べられたりすることで命をつないでいるのだと感じたそうです。

 

田んぼや畑をしている時も同じことを感じます。イネや野菜を勝たせるために周りの草を引きます。そして、収穫した米や野菜をいただき、自分の体の一部にします。田植え中、「自分の細胞を植えている気持ち」と義さん。「自分がイネなのか、イネが自分なのか」昔は自分の命は自分の中にだけあると思っていましたが、今はイネにも野菜にもそれを生み出す場にも自分の命があると思うようになりました。自分と自然の境がなくなり、自分も自然の一部であると感じます。田んぼや畑はよい瞑想になります。

 

今では命のつながりを肌で感じることが少なくなりました。農薬を使えば、自分の手で草をとることはなく、機械を使えば、自分の手でニワトリを殺すこともない。経済だけを追い求めると、米も野菜もニワトリも命ではなく商品となります。生産者はいかに速く大量につくるか、消費者はいかに安く買うかを求めます。その結果、ニワトリは狭い檻に詰め込まれ、身動きをとることも、羽があるのに飛ぶことも、太陽の光を浴びることもなく一生を終えることになるのです。

 

また、自然は破壊されていきます。自然には値札がついていないので経済を優先させると自然が破壊されるのは当然と言えるでしょう。行き過ぎると、レイチェルカーソンの「沈黙の春」のように、生き物が住めないようになってしまいます。そして、それは福島原発の事故で現実のものとなっています。

 

命を見つめること、命をつないでいくという視点を大切にしたいと思います。子どもや孫やその先に続く命のこと、地球のことを考えた選択をしたい。だから原発が仮に安くても僕は反対です。経済ではなく命の問題だと思うからです。

 

今日も僕は生かされている。あ~感謝! 

 

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映画づくりを応援してくださる方々に感謝します。祝島と福島と海に生きる人たちを追う

 

 

祝福(いのり)の海」

 

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